「良いVR体験ってなんだろう？」Apple Vision Proで探る映像の可能性｜研究開発インタビュー (後編)

P.I.C.S.で手掛けるプロジェクトや働くメンバーのバックグラウンドを掘り下げるP.I.C.S. CASE STUDY。
空間そのものをスクリーンに変えるデバイス、Apple Vision Pro※の登場を機に、これからの映像体験の可能性は大きく広がろうとしています。P.I.C.S.はホールディングカンパニーである株式会社IMAGICA GROUPとの連携のもと、Apple Vision Proを活用したリアルタイムビジュアル表現の研究開発をスタートしました。後編では、実験から見えてきた未来の映像表現の可能性について深掘りします。
本インタビューは、Apple Vision Proの通話機能「Persona（ペルソナ）」を用いて、3Dアバターを空間表示させながら行われました。
※Apple Vision Proとは…Appleが開発した、現実世界とデジタル情報を融合させる、新しいタイプのゴーグル型空間コンピュータ

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渡邊徹：株式会社コンセント 渡邊課 課長
「見回す必然」をテーマに、視聴者に没入感を伴った映像体験を企画し、撮影、制作を行う。VR映画、テーマパークなどのアトラクション向け映像、ミュージックビデオやライブ映像、ドローンを使った空撮、水中での撮影、特撮やホラーなどジャンルをまたいでVR体験の可能性を探求している。武蔵野美術大学・奄美大島ほか、教育機関や自治体で講師としてVRの活用法のレクチャーなども行う。
https://www.concentinc.jp/solution/watanabe-ka/

山内康太：P.I.C.S. 経営企画室　室長
2013年、P.I.C.S.入社。
プロダクション・マネージャーとして、広告やコンテンツ開発などのプロジェクトを担当。
2023年より経営企画室を立ち上げ、管理業務や新規事業開発などに携わる。

上野陸：P.I.C.S. TECH プログラマー・テクニカルディレクター
1992年生まれ、多摩美術大学情報デザイン学科卒業後P.I.C.S.に入社。
デザイン的思考とプログラミングを用いて新たな体感する映像を目指して、インタラクティブインスタレーション等の制作、テクニカルディレクションを担当。
https://www.pics.tokyo/member/riku-ueno/
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——今後、イマーシブビデオはどうなっていくと思いますか？新しい映像の可能性やチャレンジしたい事など、業界に対して提言があればお聞かせください。

渡邊：Appleの動向を見ていると、16:9の映像から3Dへ、そしてシームレスにイマーシブビデオへと視界が広がっていくような、「フレーム」という概念が溶けていく体験を目指しているように感じます。今後は、特定の画角に映像を収めるのではなく、空間に対してどう映像を配置し、体験をデザインするかが重要になっていくと思います。

上野：「体験をどうディレクションしていくか」が一番大きなテーマだと思っています。イマーシブビデオは、通常の映像のようにカットを切り替えることができない分、体験そのものをどう演出するかが本質になります。光で視線を誘導したり、音で気配を感じさせたり──そうした要素を組み合わせることで、体験をコントロールしていくことができる。そこに普遍的な価値と、多くの発見があると感じています。コンテンツやデバイスだけでなく、その手前にある「導入部分」の体験設計を成熟させていくことが、今後の普及の鍵かもしれません。

渡邊：それでいうと、まだイマーシブビデオは限られた環境の範囲でしか見られないものである、というのはあります。例えば、好きなアーティストが出すコンテンツはファンであれば絶対見ますよね。でもこれからは幅広い範囲で見られるコンテンツを作っていきたいなと常々思っていて、アーティストが動機ではなく、「この体験が面白いから見たい」「このコンテンツは面白いから見たい」になるといいなと。陸くんも言ってた最初の導入部分をどう作るか、ですね。ここは継続してチャレンジしていきたいところです。

山内：そもそもデバイスに触れて体験できる機会が圧倒的に少ないですよね。Apple Vision Pro自体の値段や重さなどのハードルも高く、またつけることへの心理的な抵抗などもあるので。この部分の課題は自分たちだけでは何も出来ない。ただ、Spatial Xperience Nightのようなイベントに参加したり興味を持つ事で映像体験・表現が身近になってくるので、斜に構えて距離を置くよりは飛び込んで色んなものを見てみるっていうのは、すごい大事なことだなと思ってます。

渡邊：僕もとにかく多くの方に体験してもらう機会が作れると良いなと思って、2025年の7月から体験会を開催しています。様々なイマーシブビデオやApple Vision Proアプリを体験できるイベントです。今回のコンテンツも体験できますし、それ以外に他社さんからもコンテンツをお借りしてるので、様々なコンテンツに触れる事が可能です。Apple Vision Pro自体の可能性をざっくばらんに話しませんか？という意図の無料体験会なので、ぜひ気軽にお越しください。
イマーシブコンテンツ無料体験会

山内：これから業界が乗り越えるべき課題は、、、仲間が少ない事ですね。現状は技術的な興味からクリエイターやエンジニアが趣味の延長で制作しているケースが多いので。

渡邊：VR体験で一度悪い体験(酔ってしまうなど)をしてしまうと、二度と着けたくないという気持ちになってしまう。作り手は良い体験とはなんだろう、ということを考えてコンテンツを作る必要があります。安易にVRカメラを使って撮影したからと言って、質の低いコンテンツが増えるのは危険。撮影のためのセオリーはしっかり抑える必要はあると思いますね。
そういった意味では、どうしてもテクニカルの知識がある人が、テクニカルディレクターも監督も機器の手配も体験の設計も全てしなくてはならない。得意とする分野とは異なる領域まで見れないと成立しないんですよね。

山内：そうですね。重要なのは、「どう見せれば人の心を動かせるのか？」「どんなコンテンツが良い体験につながるのか？」といった視点です。さらに、それらをキュレーションも含めて担える“プロデューサー的な視点”を持つ人材が増えれば、VR業界はもっと盛り上がっていくかもしれないですね。
業界自体はまだまだ狭いので、ライバルというよりもまずは仲間を増やしていきたいです。一緒にチャレンジしたり、可能性を広げていける関係性が理想です。
今回の僕たちの実験も、誰かの新しいアイデアのタネになり、一緒に議論したり、共に何かを作り出すきっかけになれば嬉しいです。ラフなご相談でも大歓迎ですので、ぜひお気軽に声をかけてください。

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株式会社コンセント・渡邊課

文：P.I.C.S.