アイデアの組み立て方、見せ方、通し方。ふたりの”企画のコツ”とは? | 水井翔 × 稲葉秀樹対談 #02

#Interview #P.I.C.S.management #Creator

P.I.C.S.で手掛けるプロジェクトや働くメンバーのバックグラウンドを掘り下げるP.I.C.S. CASE STUDY。
今回はP.I.C.S. managementに所属する作家による対談企画の第二弾。ともにアニメーション作家として活躍し、共通点も多い水井翔と稲葉秀樹が“同じ目線”で語り合いました。

後編では、作品づくりの進め方やこだわり、そして今後どのように活動していくか、その展望まで聞かせてもらいました。

水井翔:アニメーション作家 / ディレクター
モーショングラフィック、コマドリ、ロトスコープなど表現方法を横断しながら映像・グラフィックを展開。近年は社会・環境問題に関与したものを数多く手掛ける。
https://www.pics.tokyo/member/kakeru-mizui/

稲葉秀樹:アニメーション作家 / ディレクター
CG映像製作会社を経て映像クリエーターとして活動。
“SlowlyRising”が第20回文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品に選出。独自の手法を用いた、繊細で緻密なアニメーションのスタイルを得意とし、CM、MV、OOHなど幅広く手掛けている。
https://www.pics.tokyo/member/hideki-inaba/

ーー1人の作業では完結しない案件の場合に気をつけていることはありますか?

水井:お客さんが気になるところって自分が思ってることと重なることが多いから、最終的なハンドルをギリギリまで自分でできた方がいいかなと。少し前だと最終的に編集室でやってもらうみたいなのが多かったけど、自分のパソコンを持って行って、お客さんの前で一緒に編集する方が作り込めるというか。

稲葉:最後は自分で握りたいっていう気持ちは俺もあるかな。本当は任せられたらいいんだけど、コンテやVコンを発注する段階だと“どこをどうしたら良くなるのか”をうまく言葉にできなくて。コンテ(Vコン)の時は毎回「これで大丈夫だ!」と思うのに、蓋を開けてみると全然ダメで、直さなきゃいけないところがいっぱい出てくる。それを言葉にして人に振るのが難しいから、そこはもう自分で握るしかないなって思ってる。

水井:稲葉さんも少人数で完結することが多いですよね。僕もそっちの方がやりやすい。一人で完結しづらい仕事もあるんだけど、最終的にはクオリティとハンドリングのしやすさを考えた時に、やっぱ少人数いいなって。

稲葉:俺もそう。でも個人作品とクライアントワークでちょっと分けてるかも。クライアントワークは1人で完結しないようにするって意識してて、なるべくいろんな人に入ってもらうようにしてる。自分ができないことも多いから、3Dとかキャラアニメは上手い人にお願いした方が絶対いいし。その代わり、個人作品は絶対に全部一人でやる。そこを分けて考えてるかな。

企画の種の始まりは"調べる"

ーー企画作業の時は、こういうのを見るとすごい刺激受けてなにか作りたくなるとか、インスピレーションを受けるものがあるんですか?

水井:最初Vimeoで稲葉さんの作品見た時、キービジュアルやべえなと思って、でもサムネ詐欺かもしれないと思って開いたらめっちゃ動いてたから。まずそれでびっくりして、日本人っぽくない作風だなって思ったけどめっちゃ日本人の名前で。稲葉さんのトーンって異国感がめっちゃあるよね。どこからのエッセンスなんだろうって?普段展示とかって見たりする?

稲葉:展示はそんなに行かないかな。

水井:僕アイデア出しクソ真面目だと思う、多分。本読んだり、相手のことも調べるとか、文章ベースで。

稲葉:調べるのは同じ。調べてるとだんだん興味が湧いてきて、自分の中の引っかかるポイントを探していく感じ。

水井:活字で調べていくと絵がない分想像が膨らむし、情報がないと手が止まっちゃうっていうのがあって。だからなるべくもらった企画書を熟読するとか。いろんなドキュメンタリーを見たりとか、違う方向からも調べたりとかして。アイデア出しは、調べるね。

稲葉:情報を集めたあとは、気になったところをざっくり絵にしていくかな。
小さい四角をいっぱい描いて、描きたい絵をコマで並べていく感じ。
で、いい流れになりそうな部分が見えてきたら、パズルみたいに組み合わせて、順番を整理して間を埋めていく、みたいな。

水井:ストーリーは頭の中に入りつつも、絵がバンバン固まってきて、そこを橋渡しするみたいな?

稲葉:そうだね。ストーリーはある程度、コマの組み合わせでできるんだけど、絵が固まるのは一番最後かな。手書きやIllustratorでパーツを作って、After Effectsで動かしながらどう処理するかを試して決めていく感じ。アニメーションとセットで作っていかないと、自分の場合は良い感じになりにくいんだよね。

水井:僕も素材はIllustratorで作るんだけど、提案用キービジュアルはAftre Effectsの画面に入れ込んで処理をしてあげることで映像としての解像度が上がるし、どういうものになるか見えてくるよね。

稲葉:撮影処理で絵の雰囲気変わるもんね。

水井:グラフィックとしてはどういうものになるかIllustratorでも分かるかもしれないけど、映像としてはどうなるの?みたいなのはあるよね、奥行きを出すのもそうだし。キービジュアルをAftre Effectsで作っていると、その後動かすだけになるから作業がスムーズ。だから最初の絵作りは大事だと思うし、そこで1枚絵が完成しなかったら動き出せないからな。いいキービジュアルを何枚作れるかによって密度が変わってくるっていうのもある。

稲葉:最初の1枚を掴めると広がるよね。絵作りの時そこが一番大変かも。うまくハマればポポンって何枚か出てくるけど、苦戦すると本当に出てこない…。

水井:いつも企画書ってどんな比重で作ってる?コンテがまず先にあるみたいな?

稲葉:コンテが先にあるかな。文字だけだと説得力が弱い気がしてて。「こういう流れになりますよ」というコンテを、最初から最後までざっと埋めて提案することが多いね。

水井:いつもコンテの提案するのがめっちゃ苦手なんだよね。プレゼン自体は嫌いじゃないんだけど、コンテの説明セクションになると読んでるだけみたいになっちゃって。それが何分か続くから、見ている方からしたら「分かってるよ」って思うかもしれないし、なんとも言えない時間が経過して…。企画の話をしているときは相手の反応とかも楽しかったりするから、言葉とそれに対する挿し絵とキービジュアルの3点セットを最初に出せればいいなと思ってて。コンテはその次のセクション。

稲葉:あーこの前見せてもらったあの3点セットか!あれすごいよね!

水井:その三段構えでアグリーが取れたらコンテの中の演出面、ストーリーを作り込んでいくみたいな。スピード勝負の案件の時は、コンテも何も書かずに進めたりするけど。

稲葉:水井さんの企画書って、文章に想像の余白がすごくあって、相手がイメージを膨らませやすくて良いよね。自分の場合はその余白をコンテの中に作ってるかな。
だからコンテを説明するときも、「こことここの間にこういうトランジションが入ります」とか、「この絵がこう繋がって広がるんですよ」みたいに、コンテに描いてない部分を補足しながら説明するようにしてる。

水井:稲葉さんの場合、もうその時点でそれが出来上がってるんだもんなー。

稲葉:いやいや、そんなことないよ。制作に入るとマジでイメージ通りいかないから(笑)。でも、その段階ってやりたいことが一番膨らんでるタイミングなんだよね。だから、その余白にあるワクワクをどう伝えるかを大事にしてるかな。こんな面白いの考えてるんだよ、って。

水井:ちょっと気持ちをいれてみたいな?

稲葉:そうそう。気持ち入れるの大事、熱く話すようにしてる。つまらなそうに喋ると、そのままつまらなそうに伝わっちゃうから。結局、テンションだよ。

水井:やっぱ筋トレしなきゃだめなんだな(笑)。自分の心のモチベーターというか、サボっているとね、暗いプレゼンになっちゃいそうな気がするから。一番最初の提案の時に信頼してもらえないと後先がしんどいし、お互いリスペクトできなきゃ進めづらくなっちゃう。自分の口から伝えて、相手の人となりを知りたいっていうのもあるし、僕の人となりも知ってほしい。1人でずっと仕事してるから、打ち合わせが楽しみなんだよね。

想像の余地を埋めすぎない──これから作りたいものとは?

ーー2人で組んだらどんな作品ができるか、また、これから挑戦したいことはありますか?

水井:今までも何個か一緒にやったけど、その時は僕が結構アップアップになってたから、ある程度作業を切り分けてたし完全ミックスしたっていう仕事はあんまりないかもね。

稲葉:たしかに、2人ともディレクターだから、普通にミックスしようとすると「ここのシーンお願い」みたいに発注になっちゃう気がして。それだとミックスした感があんまりないよね。
例えばだけど、お互いコンポジットができるじゃない?
だから俺の素材を好きに使って良いよとか、水井さんの素材を好きに使っていいよ、みたいな感じで相手に任せるみたいな形の方が、価値あるかなと思う。

水井:交互に交互に、AEPデータでバトンを渡してね。

稲葉:そうそう。自由にしていいよという状態で渡すと、見たことない形になりそうじゃない?ってちょっと思った。うまくいくか知らんけど。(笑)

水井:確かに、それやってみたいな。日本画好きって話をしたけど、稲葉さんの作品には動物もたくさん出てくるし、『桃源郷』感がすごいあるなって。植物が生き生きしてるっていうか、なんか気持ちよさそうだな、みたいな感じ。鳥獣花木図みたいに動物と植物が入り交じっているようなインスタレーションの作品があったとしたら、それに応じるような。僕は釈迦十六羅漢みたいに対になるようなものを作って展示とかできたら面白そうだな。お互いの作品が分かれてるんだけど、応答する感じ。日本画ってそういうものも楽しくて。風神雷神図の裏にはそれを慕う百年後の人が、地上で嵐が吹き荒れる中の夏、秋を描いたり。そういう、金箔に対しての銀箔みたいなことであったりとか楽しかったりする。

稲葉:日本画的な考え方は面白いよね。
俺も動物や植物の世界はずっと描いてきたから、水井さんが言ってくれた桃源郷っぽさってすごくしっくりくる。同じテーマで応答する展示みたいなのはめっちゃ興味あるし、水井さんがそれをどう表現するのかも普通に見てみたい。

水井:僕、絵巻物もめっちゃ好きで、合戦物とかじゃなしに四季花鳥図みたいなの、やっぱ好きなんですね。ただの横長の絵じゃなくて、音楽に合わせてちっちゃいモチーフがポツポツ増えてきて華やかになって、最後の方に行くと静かになっていって、ふっと終わるみたいな。そういうのがお互いの映像で展開できると面白そう。

稲葉:あれはアニメーションだもんね。見てる人が時間軸を描いてるから。

水井:そうそう、僕が大学生のときの乙な楽しみが、春夏秋冬の絵巻が上下巻で分かれてるんだけど、無理やり1本の横長の画像につなげて、それをiPhoneに入れてインストの音楽を聴きながら、ゆっくりスクロールしていくっていう。

稲葉:やばいね(笑)。

水井:それが実際のアニメーションになって展開できると楽しそうだな。横スクロールじゃなくてリアルに横長のスクリーンとかでもいいし。

稲葉:ほんと絵画的な感じだよね。見る人がそれぞれのアニメーションを作っていくっていう。

水井:想像の余地はあまり埋めすぎたくない。その絵の中に対して時間の認識とかは、最低限でいいというか。

稲葉:最近思うんだけど、自分が作りたいアニメーションの方向性はそっちかな。

水井:めっちゃ合ってると思う。その良さを僕はずっとビンビンに感じてたから(笑)。

アニメーションレーベル”HEPT”への想い

稲葉:さっき悩んでるって話をしたけどさ、ストーリーがあって、キャラが演技して……っていうアニメーションが本当に苦手なんだよね。

水井:それ感じないけど。

稲葉:いや、もうすごいうまい人がいっぱいいるからさ…。
今はAIもあるし、もう自分がそこを頑張る必要ってあまりないなと思ってて。だから逆に、「ここはもうやらなくていいんだ」って割り切れるようになったというか。
それより、自分のスタイルをちゃんと詰めていく方が面白そうだし、その方向性はやっぱり絵画的なものなんじゃないかって思ってる。

水井:絵画的要素はやっぱりすごく感じるな、稲葉さんの作品に。

稲葉:そう言ってもらえるの嬉しいな。
今はディレクターとしていろんな分野をやってきたけど、
苦手なところまで無理に頑張らなくてもいいのかなと思い始めてる。そう考えると、自分の進みたい方向って、アーティスト寄りになっていくのかな、とも思う。AIが出てきたことで、今までのディレクターの仕事も揺れ始めていて、HEPTではディレクターの仕事だけじゃなく、アーティストとしての活動もやっていきたいと思ってる。もちろん、話をいただけるうちはディレクターの仕事も引き続きやるつもりなんだけどね。

水井:HEPTに対して思うところ…いろいろやってみたいっていう気もありつつ、今までやってきた中でこういう仕事は嬉しいなぁ、っていうのはなんとなくあるから、そこは引き続きやれたらいいなーって思う。この間、戦争を振り返る特集番組のお仕事を受けたんだけど、僕ああいう仕事もすごい好き。そこに内包されている想い、考えをどう解釈して繋げていくかとかっていうことを、話し合いながら作っていけるありがたみもあった。
P.I.C.S. managementにはいろんな人がいてそれぞれの方向性があるから、それは保ちつつ展示とか。クロッシングできる場所があるのはいい機会なのかもしれないなぁって、もしできるなら楽しみだなと。P.I.C.S.は尊敬する人に囲まれてるっていうのもあって。

稲葉:そういう場所があるのは、本当にありがたいよね。1人でやってるとどうしても情報が狭くなっちゃうから、「この人よかったよ」とか「このプラグインいいよ」みたいな話を共有できる環境はすごく助かる。最近も水井さんに「Furikake」教えてもらって、めっちゃ助かったし。自分が気になってるノウハウを教えてもらえるのも嬉しいし、逆に俺も何か見つけたらシェアしたいなと思ってる。そういうやりとりがあるのはいいよね。

水井:もうまるっと2時間だ。まだ全然話し足りないけど。

稲葉:やっぱね、外だといいよね。

文:P.I.C.S./撮影:Moto Ishizuka