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「挑むことへの恐怖」を越えて。東宝× P.I.C.S.が次代の才能・関駿太監督と走り出すまで(後編)
P.I.C.S.で手掛けるプロジェクトや働くメンバーのバックグラウンドを掘り下げるP.I.C.S. CASE STUDY。
日本映画界を牽引する東宝が展開する、次代を担うクリエイターの才能支援を目的とするプロジェクト「GEMSTONE Creative Label」。その取り組みから誕生し、異例の反響を呼んだオムニバス映画の第2弾『GEMNIBUS vol.2』が公開されました。P.I.C.S.は本作の一篇である、新鋭・関駿太監督の短編『ソニックビート』に制作プロダクションとして参加しました。
前編では、関監督をはじめ、本プロジェクトを牽引する東宝の栢木琢也氏、橋本理央氏、そしてP.I.C.S.のハン・サングン4名の座談会を通じて、企画の立ち上がりや本作のアイデアの源泉について深掘りします。
GEMSTONE Creative Label・・・東宝の若手社員により立ち上げられた才能支援プロジェクト。フォーマットやメディア、これまでの実績を問わず、次代を担うクリエイターが自由に才能を発揮できる場を創出することを目的にしている。
GEMNIBUS・・・「GEMSTONE Creative Label」発の企画として、複数の新鋭監督による短編作品を一本の映画として編み上げるオムニバス映画。一昨年に公開された『vol.1』は連日満席・上映延長となる異例の大反響を呼んだ。
――本作の企画はどのように始まったのですか?
栢木:東宝は、「GEMSTONEクリエイターズオーディション」というプロジェクトを2019年に立ち上げました。新世代のクリエイター発掘を目的に、「ゴジラ」など様々なテーマに沿って動画を作って応募してもらう、というものです。2022年ぐらいまで、全6回に渡り続け、クリエイターの方々とたくさんお会いすることはできましたが、なかなかその次に繋がらないという課題があったんです。そこで、関くんのような次代を担う監督に直接、挑戦する機会を与えるものにリニューアルしたのが「GEMSTONE Creative Label」で、今回は短編のオムニバスの一本を監督してもらいました。
――関監督は「TOHOシネマズ学生映画祭」でグランプリとGEMSTONE賞を受賞されて、今回のプロジェクトへの参加が決まったのですね。
関:そうですね。実は、初めて映画祭に出したのがTOHOシネマズ学生映画祭でした。GEMSTONE賞をもらうのは、僕が初めてと聞いてびっくりしました。
栢木:そうですね。GEMSTONE賞の副賞が「GEMSTONEで作品を作ることができる権利」なのですが、前年は該当者なしでした。やっぱり作品を一緒に作るとなると、その人の人生にも関わってきますし、簡単な気持ちでは賞を与えられない。そんな中、あの年は関くんの作品があって、審査員満場一致でグランプリも獲るほど、圧倒的に優れた作品だったので、我々も自信を持って賞をおくりました。
関:実は僕、GEMSTONE賞のことを映画祭当日まで知らなかったんです。結果発表を待ってたら、グランプリの前に「GEMSTONE賞、関駿太さんです」と言われて、「なんの賞だろう?これをもらうってことは、グランプリじゃないってことなのかな?」とか思ってました。映画祭が終わった後に「東宝で短編を作りましょう」と言われて、初めて「そんなにありがたい賞をもらったのか!」と気づきました。映画祭に出した作品は卒業制作だったんですけど、もしかしたらこれで終わりかもなと思って作ったものだったので、もう1本撮れると決まって嬉しかったです。
――卒業制作で最後と思っていたというと、業界志望ではなかったのですか?
関:業界志望でしたが、助監督として働けるタイプではないと、大学時代に散々思い知りました。最後の頑張りで卒業制作を作ったんですけど「ダメだったらバイトしながら何年か映画のために生きて、どこかのタイミングで就職かな」とか考えていて、ふわっとした状態で卒業してしまったんです。
栢木:この企画で一番不安だったのは、監督のスケジュールがハマらないことだったんですが、授賞式で「フリーターなんで暇です」と言われて安心しました(笑)。
――そんな企画に、P.I.C.S.はどういう経緯で参加することになったのですか?
栢木:元々、僕が個人的に企画を開発していて、P.I.C.S.さんとご一緒したいなとずっと思ってたんです。すごく攻めたオリジナル作品を作っていますし、かつ、クリエイティブを楽しみながら作ってるチームだなと感じていて。
橋本:「これ、かっこいい映像だな」と思って、どこが作ったか調べると、高確率でP.I.C.S.さんなんですよね。クリエイティブの熱量みたいなものを強く感じます。ハンさんたちが制作された『岸辺露伴は動かない』シリーズも大好きでずっと観ていますし、本作にも出演されている山﨑天さんの所属する櫻坂46さんのPVも拝見していて、ご一緒したいとずっと思っていました。
ハン:僕は最初にお声がけいただき、プロットを読んだ時に、楽しく物作りをしていた「若い時の自分」を思い出したんです。ちょうどその時、別作品の撮影の予定もあって、ハードなスケジュールではあったんですけど、自分が若い頃に感じていた「物作り」に対する気持ちを、P.I.C.S.の若手にも改めて感じてもらえるきっかけになると思ったんです。
――仕事として作品を作るとなると、様々なことを考えないといけませんが、純粋な作品作りの喜びを若いスタッフに味わってほしかったと。
ハン:そうですね。ちょうど『岸辺露伴』シリーズが6年目で、確立されたスタイルで長く続く中で、原点に立ち返るのもいいのではと感じたこともあったので。新しい勢いになるんじゃないかと思いました。
――ハンさんは、P.I.C.S.という会社の強みはなんだと思いますか?
ハン:統一されておらず、色々なタイプの作品を作っているところだと思います。メンバーそれぞれの好きなものも、得意なものも違う。自分たちが楽しいと思う部分がそれぞれちゃんとあって、まとまりづらい会社なんですけど、それがまた楽しいんですよね。
――このクリエイターとこのクリエイターが同じ会社にいるんだ、みたいな驚きがありますよね。
ハン:P.I.C.S.はIMAGICA GROUPに属しているんですが、関連事業会社の中でも毛色が違うとよく言われますね。最近、IMAGICA GROUPのあちこちの会社に行くんですが、尖っている部分が良い意味で評価されるようになってきました。経営陣から見ると、めんどくさい連中かもしれませんけど(笑)。
――関監督は、本作のアイデアをどこから着想したのですか?
関:映画祭の後に何本も企画を作ったんですけど、なかなかうまくいかず、詰まっちゃった時に「関さん、部活何してましたか?」みたいな質問をされまして。僕、中学時代に陸上部で走り幅跳びをやってたんですけど、幅跳びの選手は100メートルの大会にも出るんです。それがすごい嫌だったという話をプロデューサーの2人にしたんですね。「走る前が永遠に感じるぐらい苦痛なんだ」っていう話をしたら、「それいいですね」って言われて。
――プロデューサーのお二人は、そのお話のどこに惹かれたんですか?
栢木:一番覚えてるのは、関くんがこれから商業監督になるという時に「喜びや楽しみと同時に、怒りと不安もあります」みたいなことを言ったことです。今まで学生で好きなものを作っていたのに、グランプリ受賞で大人たちが急に注目してきて「お前らに俺の気持ちがわかるんか」って思いや、「失敗できない」という気持ちにもなったと思うんです。その時に、陸上の話を聞いて「走り出す前の感情」と監督の葛藤が一致してるなと感じたんです。
橋本:その前に出していただいてた企画は、会社員の労働讃歌みたいな企画だったんです。監督も「会社員やったことないから、難しいっすね」と言っていた流れで、「じゃあ過去にやったことあることやってみましょう」という話から出てきたんですよね。
関:労働賛歌のネタは、東宝さんのオフィスに通ってたからそんなネタが出てきたんだと思います。自分は社会で働いたことないのに(笑)。
――100メートル走だけで1本の映画になるかどうか、不安ではなかったですか?
関:めちゃくちゃ不安でしたけど、これをどうやって表現すべきかと考えて、走りだす前の「脳内」を描くといいかなと考えました。脳内世界に「テレビデオ」が出てきます。陸上って結構僕の中ではあんまりいい記憶はないので、その代わりのご褒美みたいなものです。小さい頃からインドア派で、映画を見るのも大好きだったので、VHSで毎日映画を見ていました。車が走り出すシーンがあるのは、多分昔よく見ていた『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の影響ですね。そんな風に脳内から過去に向かえば、いけるかなと思いました。
短編映画『ソニックビート』より Ⓒ2026 TOHO CO., LTD.
――走る前って何が辛いものなんですか?
関:人の目ですね。シーンとした中でみんなに注目されてるんですよ。しかも、露出度の高い、心許ない格好じゃないですか。もう自分の体だけがそこにあるみたいな感じで。走りだせばすぐに終わるんですけど、その前は「本当に体が動くのか?」って疑ってしまって、10何秒後に自分がゴールしてるのが信じられないんです。
ハン:まさにそれが、僕らが伝えたかったメッセージでもあったんです。プロットを読んで感じたのは「挑むことへの恐怖」で、それって、みんな一度は感じたことがあると思うんです。その例えとして「走り」はわかりやすくて共感しやすい。だから、この映画を通して「みんな悩むだろうけど、まずやってみようよ」と伝えたかった。
関:皆さんがおっしゃる通り、走りだす前の心境は、映画を作る前の、何本も企画を潰していた自分と重なる部分もあるなと思いました。もう少し言えば、自分が監督として進みだしたことと、陸上の「走りだす」ことをリンクさせれば、デビュー作としては景気がいいかなとも思っていました。
後編へ続く
文:杉本穂高 / 撮影:Moto Ishizuka
◼︎ GEMNIBUS vol.2 – ソニックビート
https://gemstone.toho.co.jp/content/sonicbeat/
2026年3月6日(金)~3月13日(金) TOHOシネマズ 日比谷にて1週間限定公開
★好評につき公開延長・拡大が決定いたしました。
TOHOシネマズ 日比谷、TOHOシネマズ なんば(3/19(木)まで)、kino cinema 新宿、kino cinema 立川高島屋S.C館、kino cinema 横浜みなとみらい、kino cinema 天神、kino cinema 心斎橋(以上3/20より)、kino cinema 心斎橋(3/27(金)より)
出演:西垣匠 山﨑天 (櫻坂46) 戸塚純貴
監督・脚本:関駿太
制作プロダクション:P.I.C.S.
製作:GEMSTONE Creative Label
© 2025 TOHO CO., LTD.