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「前例がない」を強みに。P.I.C.S. × Questryがオリジナルアニメ『プリンセスぞのふ』で切り拓く、制作会社主導の新しいお金の流れ(後編)
P.I.C.S.で手掛けるプロジェクトや働くメンバーのバックグラウンドを掘り下げるP.I.C.S. CASE STUDY。
今回は、ファンドを用いた新たな資金調達スキームで挑むグローバル向けオリジナルIP『プリンセスぞのふ』のプロジェクトにフォーカス。株式会社クエストリー(以下Questry)CEOの伊部智信氏と、P.I.C.S. 代表取締役社長の平賀大介、プロデューサーの土井陽絵。プロジェクトのキーパーソンである3人の対談を通じて、パイロットフィルムへのファイナンスを活用したオリジナル企画の立ち上げ方や、アニメーション業界に新たな変化をもたらすためのポイントを探ります。
前編ではP.I.C.S.とQuestryの出会い、そして「プロジェクトぞのふ」ファンドのスキームについて語ります。
――QuestryとP.I.C.S.は、いつ、どのように出会ったのですか?
平賀:共通の友人に紹介されて、伊部さんを引き合わせていただきました。
伊部:2年半くらい前の話ですけど、日本のコンテンツ産業では、海外と比べて金融機関が資金調達等において役に立っていないという話を聞いていました。どうすれば役に立てるか考えている時に、「それなら平賀さんに相談してみたら?」とご紹介いただいたのが最初です。お会いした時には、具体的なプロジェクトの話はなかったですが、情報交換をさせていただく中で、平賀さんもアニメにおける既存の資金調達方法である製作委員会の課題に向き合っていらっしゃると教えていただき、金融で役に立てるかもしれないと感じたんです。
――『プリンセスぞのふ』の具体的な企画が立ち上がり、伊部さんのファンドのプランと繋がるのは、どういう経緯だったのでしょうか?
伊部:今、エンタメ産業に必要とされているファイナンスは何かと色々な方に伺い、1つの仮説として「パイロットフィルムへの出資」というプランが浮かんできました。パイロットフィルムは、これまで制作会社が自己負担で制作することが多かったと思いますが、そこに投資家を連れてきて支援することに意味があるのではないかと考えたんです。
平賀:伊部さんからその話を聞いた少し後くらいに、社内で土井から今回の企画が上がってきました。作品の中身とIP展開方針が、伊部さんの構想したパイロットを作って広げるやり方に向いているのではと思い、企画を伊部さんに紹介して、この取り組みが始まりました。
――本作はクリエイターのYKBXさんが企画にも名を連ねていますが、土井さんは一緒に企画を作っていらしたのですね?
土井:そうですね。YKBXとこの企画を動かし始めたのは、去年の6月、アヌシー国際アニメーション映画祭の直前でした。原案自体は彼がすでに持っていたんですが、そのタイミングで、VIPOがMIFA(※1)で行っている支援事業を知ったんです。企画段階の作品を対象にしたプログラムで、採択されると商談ブースやピッチングの機会がもらえる。これはアヌシーに持っていけるチャンスだと思って、急ピッチで企画をパッケージ化し、無事採択されました。
※1 MIFA=Marché international du film d’animation / アヌシー国際アニメーション映画祭併設のマーケット
『プリンセスぞのふ』作品概要
世界最強の日常に、異国の姫がカルチャーショック!
日本の庶民文化を舞台に、異国の姫が大袈裟に感動しながら大騒ぎする、グローバル発信型コメディアニメ。
<STORY>
誰も怒らず、静かで平和な「凪の国」で育った姫・ぞのふ。
破天荒すぎて人間修行に出され、たどり着いたのは日本。
コンビニの品揃えに目を輝かせ、
カップラーメンの旨さに感涙し、
商店街の呼び込みの声に心奪われ、
満員電車の洗礼を受ける。
日本人にとっては当たり前の日常が、ぞのふにとってはすべて大事件。
そのたびに“ぞのめき”が起こり、彼女の周りに風が吹く。
日本の日常を、外から来た姫の視点でひっくり返す。
日本人には再発見を、海外には驚きと共感を届ける、
グローバル発信型のカルチャーショック・コメディ。
<STAFF>
企画原作・キャラクターデザイン・監督:YKBX
脚本・シリーズ構成:坂本ミズホ
音楽:Ryosuke “Dr.R” Sakai
制作:P.I.C.S.
現在パイロットフィルム制作中
YKBX – profile
DIRECTOR / CREATIVE DIRECTOR / ART DIRECTOR / CHARACTER DESIGNER / ARTIST
各種映像作品のディレクションや制作に加え、アートディレクション・イラストレーションやグラフィックデザインなど活動は多岐にわたる。トータルアートディレクションを目指した作品を数々リリースし、国内外の映画祭やイベントでも高く評価されている。
https://www.pics.tokyo/member/ykbx/
土井:YKBXは、特定のジャンルやカテゴリに限定されない世界観を作るのが得意なクリエイターなので、マルチチャンネルでグローバルに発信できる企画が彼の才能を最大化できる道につながると考えて、MIFAに参加し、ブースでのプロモーションとピッチングを経験しました。私たちも初めての参加で、右も左もわからず、言葉もあまり通じないような状況だったんですが、デザインや日本の日常カルチャーに高いポテンシャルがあることを肌で感じて、これを育てていきたいという気持ちを強くしました。
――『プリンセスぞのふ』はグローバル市場を見据えた企画なわけですね?
土井:はい。グローバル向けに、日本の日常というテーマが適していると考えました。プリンセスのぞのふにとって、日本の日常は新鮮な驚きに満ちていて、それはそのまま海外の方にも驚きとなります。また、日本人は自らの日常の良さに無自覚だからこそ、外から来たプリンセスの目線で語られると嬉しいという、逆カルチャーショックや逆輸入みたいなものを、構造的に作りました。
――キャラクタービジネスに繋ぎやすいタイプのデザインですよね?
土井:そうですね。シルエットが強く、さまざまなメディア展開を想定したキャラクターデザインに設計されています。YKBXはグローバル市場を前提としたゲーム領域でのキャラクターデザイン経験があるので、その感性を総動員してポップに振ったという感じですね。
――でも、異国の目線を日本人アーティストが描くというのはなかなか難しいことだと思います。自画自賛にならないように気を付けないといけないですよね?
土井:それはYKBXともかなり話しました。ぞのふが日本のカルチャーを体験するだけでなく、彼女との出会いによってタカシやヒカリといった日本人キャラクターも変化していく様を描こうと思っています。日本人が当たり前だと思っている生活文化こそ、海外の方がハマるポイントだったりするんです。MIFAでは、ぞのふのことを「アニメ版Emily in Parisだ」と説明していました。登場する場所や商品、カルチャーそのものが魅力的に伝わるような“動画カタログ”にしたいんです。それだけの魅力を日本は持っていると信じているので。
――去年、MIFAに参加した段階では、パイロットフィルムは持っていけなかったんですよね?
土井:はい。パンフレットやステッカーを作り、会場で色々な人から「これどこで作ってるの?」とたくさん声をかけられて、すぐになくなりました。YKBXの持っているビジュアルセンスが世界に通用するという感触を得られたのは収穫でした。でも、やっぱり「映像を見せてくれ」とはたくさん言われましたね。マッチングしている時に「制作費、今どれくらい集まってるの?」と聞かれて「0です」と答えたら門前払いになる、みたいなことがあったのも事実です。
――人気マンガを原作に持つ作品が大ヒットしている市場環境で、オリジナル企画を通すのは、非常に難しいとよく言われます。
平賀:そうですね。製作委員会方式は、すでにファンを獲得している原作をより広く、グローバルに大きくしていくための仕組みとしては、本当によくできていると思います。一方で、オリジナル作品を立ち上げる際には、最初の1歩目の賛同を得づらい。ファンも認知もゼロからのスタートなので当然ですが、ピクスに限らず、皆さん、同じように苦労されていると思います。
――実際、御社のオリジナルアニメ『オッドタクシー』は、企画の立ち上げから制作スタートまでにかなり時間がかかったんですよね?
平賀:はい。出資を集める際、みなさん「面白いですね」とは言ってくれるのですが、稟議で企画が通らない。当時は商業アニメの実績もなかったので、委員会を組成するまでにすごく時間がかかってしまい、企画立ち上げに関わっていただいた人たちを長く待たせてしまいました。
――今回はパイロットフィルムの制作にファイナンスするのがポイントですね。
伊部:そうですね。海外のファイナンス交渉には必ず「開発費用」という項目があって、パイロットフィルムを作った人たちに支払う契約をするんです。
――しかし、パイロットフィルム自体は直接お金を生むものではありません。どう投資家にリターンを返すのですか?
伊部:パイロットへの投資は、金融的な考え方で株式に例えて言うと「シード投資」に近い。土井さんのお話にもあったように、パイロットフィルムがあると海外との交渉が進みやすくなります。パイロットで回収するのではなく、その後に長編化やシリーズ化して投資分を回収するという設計が可能なのではないかと思いました。
さらに、その後のリターンをどう分けるかについても、時間をかけて話し合いました。これまでアニメーション制作における資金調達の事例を聞いていく中で、私が不思議に思ったのは、企画者が最初に入れるお金と、事業者が状況を見て最後に入れるお金で持分が変わらず、同じ価値とされることが多いことです。金融の世界では、最初にリスクを取った人がより大きなリターンを得るもので、最初に入れた1億円と後から入れた1億円ではリターンの条件が違うんです。だから最初にリスクを取って投資したい人がいるわけです。
後編へ続く
文:杉本穂高 / 撮影:Moto Ishizuka
■Press Release- P.I.C.S.とQuestryがIPコンテンツの共同開発に関する業務提携を締結。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000448.000037973.html