アニメーションのルーツから未来まで。ふたりらしい”創作の視点” | 水井翔 × 稲葉秀樹対談 #01

#Interview #P.I.C.S.management #Creator

P.I.C.S.で手掛けるプロジェクトや働くメンバーのバックグラウンドを掘り下げるP.I.C.S. CASE STUDY。
今回はP.I.C.S. managementに所属する作家による対談企画の第二弾。ともにアニメーション作家として活躍し、共通点も多い水井翔と稲葉秀樹が“同じ目線”で語り合いました。

前編では、ふたりのルーツや影響を受けた作品、日常の趣味から、お互いの好きな作品の魅力を語り合うなど、作家としての原点について紐解きます。

水井翔:アニメーション作家 / ディレクター
モーショングラフィック、コマドリ、ロトスコープなど表現方法を横断しながら映像・グラフィックを展開。近年は社会・環境問題に関与したものを数多く手掛ける。
https://www.pics.tokyo/member/kakeru-mizui/

稲葉秀樹:アニメーション作家 / ディレクター
CG映像製作会社を経て映像クリエーターとして活動。
“SlowlyRising”が第20回文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品に選出。独自の手法を用いた、繊細で緻密なアニメーションのスタイルを得意とし、CM、MV、OOHなど幅広く手掛けている。
https://www.pics.tokyo/member/hideki-inaba/

”2Dで密度を描く”横スクロールで育った2人

稲葉:俺’88年生まれだから、流行ったものとか多分一緒だろうね。

水井:稲葉さんが1個上やもんね。だから、影響を受けてるものとか見てきたものがめっちゃ近いと思う。最近ね、めっちゃ見てるのが『ダライアス』知ってる?普通のシューティングゲームで。セガサターンとかであって、全部敵キャラが海の生物で。

稲葉:あ、これ知ってる!懐かしい!(笑)。この敵キャラ覚えてる。

水井:音楽に合わせて敵キャラが波打って出てきて、音楽も独特で良くて。水槽を見てるような感じでプレイできるからめっちゃ楽しくて、小さい頃兄貴のプレイをずっと見てた。

稲葉:お兄ちゃんが何個離れてるんだっけ?

水井:兄貴が2つと3つ。3人兄弟。

稲葉:じゃあ一緒だ。俺も3人兄弟。双子の兄貴がいて、下に2個下の弟がいる。やっぱ覚えてる、こういうの。懐かしい。

水井:稲葉さんの絵柄でダライアスできたらめっちゃ楽しいだろうなって。横スクロールめっちゃ好き。横スクロールで育ってるから。

稲葉:あー、だからあの世界観なんだって納得したわ。

水井:攻略本見て世界観を構築して、ドット絵だけど世界を広げるというか。

稲葉:俺も最近、昔のゲームの攻略本とか買っちゃう。ブックオフでめっちゃ安く売ってるよね。

水井:もう画集みたいなものですよ。

稲葉:そうそう、画集だよね。

水井:鳥山明のクロノトリガーなんか、ドット絵で再現できない絵を綺麗に描いてて。この世界があの画面に広がってるんだっていう脳内補完をするんですよね。

稲葉:ワクワクするよね。敵キャラもさ、図鑑みたいに載ってるの。

水井:ロックマンもキャラクターのデザインは細かいけど、ゲームの中には豆粒ぐらいで出てくるから、こういうキャラしてたんだ、みたいな感じとか。初期のロックマンってメカ感あるけど、生物みたいなモチーフが可愛くて。

稲葉:わかる、めっちゃ好き。

水井:3Dになる前のゲームのとにかく密度描いてやろうみたいな、画面狭白というか、余白を残さないのが結構好きだった。見てて充実するし、プレイしなくても眺めてたい。稲葉さんの作品に通ずるところをすごく感じるよね。

稲葉:確かに、すごい影響受けてると思う。保育園の頃からずっと横スクロールの絵ばっか描いてた。

水井:そこから?

稲葉:よく兄とやってた遊びなんだけど、A4の紙にまず地面を描くんだよね。そこに木とか山とか、ちょっとしたフィールドを描いて世界を作る。で、空いてるスペースにオリジナルのメカや怪獣を描いて、シューティングゲームみたいに対戦してた。攻撃するときはミサイルやビームの絵を描いて相手の絵をぐちゃぐちゃにする(笑)。

水井:もったいない(笑)。

稲葉:消しゴムで相手の絵を消したりもしちゃってさ、でもお互いめっちゃ力作の絵だから、最後は絶対ケンカになってた(笑)。

水井:喧嘩になるわ、それは(笑)。

「クラフト感とデジタル感」と「植物系の能力」

水井:アニメーションを始めようと思ったきっかけの作品も稲葉さん多分好きだと思う。大学で何をしようか迷ってる時に、昔やってたデジタルスタジアムっていう番組で、斉藤俊輔さんの「yume」という作品を見て…音楽も自分で作ってるみたいで。これも基本スクロールだし、ノートの端に書いたような落書きががめっちゃ動いてて、それがうらやましくてアニメーションを始めた。もう18年くらい前だけど、今でも見返すんですよ。

稲葉:自由だね、これ。落書きがそのまま動くってめっちゃいいよね。こういう全部自分で完結させるアニメーションを見ると、「あ、1人でもここまで作れるんだ」って思えるよね。

水井:そう、めっちゃ自由。いろいろミックスしてるんだけど、基本は多分After Effectsだと思う。

稲葉:ちょうどその時期にAfter Effectsの3Dレイヤーが扱いやすくなってきた頃だったかもね。だから、こういう空間を表現するのにCGを使わなくても作れるようになった感じがしてて、『yume』みたいな実験っぽい作品が増えた印象ある。水井さんのルーツな感じがすごいした。

稲葉:水井さんの作品って、クラフト感とデジタル感の混ざり方がすごく絶妙で、あの温かみのあるデジタル感って他にあんまりないと思うんだよね。手法もいろいろ使っているし、そういう感覚ってDRAWING AND MANUALにいた影響もあるのかな?

水井:一つにこだわらないというか、大学の時、先人がやってる技法を試してみて、自分で最終的にどれを選択するかみたいな感じでやってた。当時見ていたミュージックビデオも、”フェナキストスコープ”を電子制御して、CDの盤面に印刷したものを並べて撮影されてたり。古い技法とテクノロジーを掛け合わせると新しい表現が見つかりそうだなって思って。DRAWING AND MANUALのアニメーションも確かにクラフト感よね。

稲葉:でも、クラフトに寄りすぎないじゃない?アナログとデジタルな部分が良いバランスだから、あんまり被らない作風だなって思う。
ロトスコープって普通になりがちだけど、モーショングラフィックスも入ってくるから、見ててめっちゃ気持ちいいなと思って。全体的にやっぱすごい好きだな。

水井:ロトスコープは大変だけど、使いようによってはすごく活きるというか。表現方法は大きく、ロトスコープ、コマ撮り、モーショングラフィックス、実写のこの四軸ぐらいで、その中で自分の好きな方向性で選んじゃう感じではある。

稲葉:どの組み合わせも、なんか水井さんっぽさを感じるかな。

水井:自分に作家性が全然ないと思ってるから、逆に稲葉さんのテイストがすごい羨ましくて。モチーフがあったとしても、その商材に溶け込ます解釈とか消化がめっちゃ上手だなと思って。例えば、万博のミャクミャクの壁画あったじゃん。”コミャク”というものがどういうものなのかとか、それを稲葉さんがやるとこうなるよね、みたいな感じで元あるモチーフそのものの良さもすごくいい感じにミックスしてると思う。単純に稲葉さんが器用なのか、作り出すものが必然的にそういう性質を持っているのか、両方なんだろうと思いつつも、どこでもそれを合わせられるのはすごい羨ましいなと思って。

稲葉:めちゃくちゃ嬉しい(笑)。最近ちょっと自信なくしてたから、余計に。

水井:アニメのオープニングとかも作ってるじゃん。どれを見ても稲葉さんの作品ってわかるんだけど、唯一無二だし、でもうまくモチーフと溶け合ってて、これは”植物系”の能力だなと思いながら。

稲葉:植物系の能力って?

水井:どこにでもうまく順応して絡んでいって、でも自分の要素もしっかり残すというか。だからストーリーが起承転結に委ねなくてもすごく充実感がある映像だなって思って。僕、日本画が大好きなんだけど、その襖絵とか屏風を見るような感じ。花鳥や四季、日照・日没とか、単純な時間軸なんだけど、ずっとその風景の流れを眺めてたいというか。そこに物語もあるけど、あまりそれを考えずに眺められるのがすごくいいなって思うから。稲葉さんのVimeoのヘッダーになってる『Tape』ってミュージックビデオあるじゃん。あれもずっと眺めちゃう。

稲葉:そう言ってもらえるの、本当に救われる…。最近、自分がすごいダメだなぁと思ってて…。

水井:いや、なんで?なんで(笑)?

稲葉:自分でも、“ただ眺めていられる感じ”が自分の良さだと思ってるんだけど、最近はちゃんと起承転結を作らなきゃとか、キャラの演技でシーンを綺麗に繋げなきゃとか、そういうのに囚われすぎてて。ちゃんとやろうとするんだけど、そこがあんまり得意じゃないなって感じるんだよね。

水井:いや、そんなことはないと思うけど。

稲葉:特に最近迷走してたから(笑)。そんなタイミングで水井さんの作品見ると、どのジャンルでもブレずに積み重ねてきたものがちゃんと形になってて、すごいなと思ったんだよね。
大阪万博のEARTH MARTも本当に完成度高くて、「あ、こうやってレベルアップしていくんだ」って思った。

水井:あー、嬉しいわ。これ録音してるんですよね。ここ、ちょっとループで(笑)。ありがたいなぁ。

稲葉:昔の作品もすごい好きだったんだけど、EARTH MARTはさらに進化してる感じがあってさ。万人に届くデザインになってるのに、水井さんのスタイルはちゃんと残ってる。
その自分のスタイルを案件にフィットさせる力がすごいなって思う。
むしろ俺こそ、そう思ってたよ。

水井:今までの仕事全部に反省するべきところがあるんだけど、それを一個一個思い出して、ここ直せばよかったな、みたいなのを書き出して作っていったんだよね。EARTH MARTは空間が14mっていうのもあって、実際に現場で見たら大味に見えたり、抜け感が心配だなって。だから密度で埋めたいっていうこともあった。手癖でAfter Effectsでパス取るんじゃなくてIllustratorで一個一個データを作って、グリッドのルールに従ってデザインした。キービジュアルは、稲葉さんの作品と密度感を照らし合わせながら、客観的に見たらどうだ?って思うようにして。擬似稲葉大戦というか密度・画の強さみたいなのはすごく見比べた(笑)。

稲葉:いやいや、大戦って…(笑)。でも、工程の話聞くと本当に丁寧に絵作りしてるのが伝わってきて、EARTH MARTの画の強さにもすごく納得した。俺なんて密度で押しがちだから、水井さんみたいに密度とサイズのバランスをちゃんとコントロールできるの、本当に上手いよなって思う。

水井:自分の思ってる7割か8割ぐらいのサイズで作らないと大味になりがちなんだよね。昔、アシスタント時代に言われたことが「水井くんは自分が思ってる以上に画面の7割ぐらいのサイズ感で構成した方がいいよ。完成したって思った時点で画面を小っちゃくしてみな」って言われて。それはわりと今でもやってる。

それぞれの自分の強みを出すために

水井:稲葉さんも僕も、共通して虫が好きっていうのがありますよね。最近も虫の動画ばっか見てる。

稲葉:生き物はずっと好きだな。(水井さんの出身地)加古川ってさ、海も山も川もあってめっちゃ良いところだよね。尾道も瀬戸内海で水辺が多いから、水系のモチーフが多くなるのはその影響なのかなって思ったんだけど。

水井:あー、どうだろうなぁ(笑)。でも小学校の時に島根に3年間住んでて、日本海は海がきれいだし釣りはよく行ってた。確かにそこで虫捕り少年になったっていうのはあったかな。ずっとカマキリ捕まえてた。

稲葉:カマキリいいよねー。あのフォルムめっちゃ好き。

水井:カマキリはやっぱかっこいい。虫って形をシンプルに落とし込みやすくて、描いてて可愛いなってなる。哺乳類も好きなんだけど、見る角度で思いっきり形が変わったりするから構成するのが難しいなぁ。あと虫は動きも面白いなって思うし。稲葉さんはそれこそ生い立ちというか、虫捕り少年だった?

稲葉:今でもだよ!(笑)未だに虫見つけたら捕まえちゃう。

水井:なんか虫捕り少年っぽさをね、感じる(笑)。稲葉さんの『TIME TIDES』って結構虫出てくるじゃん。あれって、元ある動画をロトスコープしてるのか、どうやって作ってるの?

稲葉:虫の動きはなんとなく分かるから、ロトスコープはしてないよ。

水井:すげえ。稲葉さんの作り方は、いつも説明されてもわかんないって思うんですよね。毎回会った時に聞くんだけど、理解が追いつかなくて。

稲葉:水井さんは、After EffectsとMohoっていうソフトも使ってるよね。

水井:そう、Mohoっていうソフトを最近購入して練習してる。動物の足の動きが複雑だったり、それをAfter Effectsのプラグインでやってるとデータが煩雑になるから、繰り返したい動きはMohoでリギングした方が作りやすい。

稲葉:リギングすると、関節のポイントを動かすだけで角度が決まってくれるんだよね。そのおかげで、動きを作るのがすごく楽になる。

水井:それが追従してくれるからパスを一個一個描くよりも制御がしやすくて、人形を動かすみたいな感じでアニメーションを作れるんだけど。それプラス、パスも1フレーム1フレーム調整できるのがMohoのいいところ。ベクターで絵を描くのも好きだから「このソフト5年ぐらい待ってたわ〜」って思った。

稲葉:Mohoを取り入れてから、水井さんの作品ほんとレベル上がってると思う。平面なのに立体感があって、俺にはこれできないわって思った。

水井:言ってくれたら稲葉さんちに行って、いつでもMoho教えるよ!

稲葉:覚えられないんだよなー。ちょっと触ってみたんだけど、どうしても飽きちゃって(笑)。最近は諦めて自分の癖を強めるしかないなと。
今ってAIでアニメーションも実写も何でも出せる時代だから、みんなが見たいものはもうAIが作ってくれるじゃん。だからこそ、自分の好きなもの(癖)をちゃんと持ってないと逆に生き残れないなって思ってる。

水井:確かにそうだと思う。自分の持ってる強みをガンッと出すしかないよね。自分といえばこれっていうのが結構今散漫になってて、一つにこだわんなくてもいいやって気持ちでもやってるから、あれなのかもしれないけど。

稲葉:俺から見て水井さんって、“デッサンが上手い・デザインが上手い・アニメーションが上手い”の三つがちゃんと積み重なってる人なんだよね。それがちゃんと掛け算されてる気がするよ。甲子園もEARTH MARTもモチーフの落とし込みがめっちゃうまい。写実的なのにデザインとして整理されてて、余分な線がちゃんと削がれていくあの感じ、本当にかっこいいと思う。これできる人、多分そんなにいないんじゃないかな。

水井:いやいやいやいやいや、そんなことはない。自分では常にまだまだだなって思うし、最近は絵柄をお任せするっていうやり方もしたりする。さっき稲葉さんが言ってた作家性を出して突き進まなきゃ生き残っていけない気がするから、どうしたもんかなっていうのは悩んでる。悩みだしたら、もうジムに行くしかない(笑)。

文:P.I.C.S./撮影:Moto Ishizuka