「オッドタクシー」ができるまでとこれから。(後編)

2021年4月に放送され、大きな話題を呼んだアニメ「オッドタクシー」。ポップなキャラクターを裏切る、ダークで緻密なストーリーと誰もが息を呑んだ最終回が口コミでの人気につながった。2022年4月には映画も公開され、企画展開催、そして2023年1月には舞台上演など今なおその話題は尽きない。

インタビュー前編では作品の立ち上げから制作までを紹介したが、後編では放送後の反響、拡がりについて、そして新しく立ち上げられたブランド・P.I.C.S. STの目指すものを語る。



平賀大介:
P.I.C.S. 代表取締役 / プロデューサー
2000年P.I.C.S.の創業に参画、オリジナル作品の企画開発を中心に幅広いジャンルで映像制作に携わる。今まで関わった作品にドラマ「タイムスクープハンター」シリーズ、ドラマ「岸辺露伴は動かない」など。
https://www.pics.tokyo/member/daisuke-hiraga/

神戸麻紀:
PRプランナー / プロデューサー
2016年P.I.C.S.入社。作品のPRプランニング、企画開発などを担当。
https://www.pics.tokyo/member/maki-kambe/

インタビュー前編:https://www.pics.tokyo/casestudy/oddtaxi_1/

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作るだけでなく、広げるために

――その後の作品の盛り上がりについては、どんな気持ちですか。


神戸:本当に盛り上がったのは、たぶん最終回が終わった後ぐらいです。放送中に見てくれている人がいて、その下火がじわじわ広がっていった感じです。


平賀:ドカンと爆発したというよりは、ゆっくりと見てくれる人がじわじわ増えたように感じます。放送が終わったら、このまま落ち着いてしまうのではないかと、最終話放送の時は、内心焦っていました。


神戸:私たちには人気を知る客観的な数字が何にもなかったんです。ツイッターのフォロワー数も増えていましたけど、他のアニメ公式アカウントに比べたらそこそこでしたし、視聴率もあまり出ない深夜での放送ですからね。


平賀:ブルーレイボックスの予約受注が始まって、高額商品なのに、こんなに沢山の人が買ってくれるんだと盛り上がって。初めて客観的な評価として数字が出たので安心しました。


神戸:最初はポニーキャニオンさんと「1500セットは行くと思います」とお話していて、夢設定として2000セットを置きましょうか…という想定でした。それが夢を飛び越えて予前締め切り前日には4000セットも注文頂いてて。最終日には更に2000セットほど追加になりました。

きりのいい数字を超えるたびに「◯◯セット突破!」とツイッターに投稿する画像を作っていたのですが、作っていた分が間に合わなくなっちゃって。最終日はずーっと画像作ってました(笑)。
締切と同時に6000セットを越えたのは今でも忘れられません。

▲予約締切当日、グループラインで行われていたやり取り。

――ファンとのコミュニケーションの取りかたも変わっていました。

神戸:基本的にPRはポニーキャニオンさん主導で動いて頂いているんですが、P.I.C.S.発信のアイデアも取り入れてもらいました。例えば、Instagramの運用とか。アニメカルチャーのファンだけでなくて、お笑い、ドラマ、音楽好きに届ける手段としてTwitterとは同じ情報でも届け方を工夫していました。

あとインスタライブも定期的に実施してましたね。 Amazon Prime Videoの同時視聴機能を使ったウォッチパーティも毎週やっていました。作品を応援してくださるファンの方とはできるだけ距離を近くしたいと思ったんです。
インスタライブも深夜の凄い時間でしたけど、TV放送のあったその後に、ウォッチパーティを皆さん一緒に見ましょうみたいな。翌日は、すごく眠かったですね。


――タイアップはどうですか? 番組当初から決まっていたのですか。それとも口コミが広がると一緒でしょうか?


平賀:最初、タイアップもアプローチしたんですけど、それがなかなか決まらないですよね。オリジナルだし、放送して話題になるかもわからない。しかも1クールで終わるとなると、タイアップするには弱いですよね。ただ話題になると、逆に皆さんからお声が掛かる。そういうものなんだなと分かりました。


神戸:数こそ少なかったですが放送当初からタイアップしてくださる企業さんはありました。BEAMSの「BEAMS T」さんは、かなり初期にコラボグッズを展開してくださいました。商業的に狙ってというよりは、たぶんご担当者の方が作品を好きになってくれて、それで動かしてくださったのかなと。

他にも各社さまとご一緒しましたが、特に印象的だったのがTokyo Prime+タクシーアプリGOさんとサウナキャンプさんでしょうか。
Tokyo Primeさんはタクシーの後部座席についているデジタルサイネージですが、TV放送に合わせてタクシーつながりで、ということでコラボムービーを流して頂きました。
タクシーに乗ってすぐ小戸川が流れるのはかなりインパクトがあったようで、色々な人に「タクシーで見たよ」とお声がけ頂きました。映画公開時にはタクシーアプリのGOさんともコラボしたCMを作らせて頂いたり。この作品ではタクシーでなにかやりたいとずっと思っていたので「うちにピッタリですね!」と色々場をご提供頂いて本当に嬉しかったです。

サウナキャンプさんは、テントサウナの普及をはじめ、楽しいサウナライフを提案するチームの皆さんです。
「作品のファンです!」ということでご連絡頂いたところから始まりました。
作中でサウナが重要なシーンの舞台になっていることもあり、キャラクターがサウナに入ってる描き下ろしイラストでのグッズ展開や都内サウナでのステッカー配布などさまざまなお取り組みをご一緒しました。

作品愛をとても強く持っていただいて、細かいところまで気配りしていただいて嬉しい限りでした。

オッドタクシー × Saunacamp. 特設サイト
https://saunacamp.net/collabo/oddtaxi/


平賀:そういう意味では、幸せなかたちだったね。自分たちが面白いと思ったものを作って、それを面白いと思ってくれる人たちから「一緒に何かやりたいです」と言われて。


神戸:各グッズメーカーさんに教えて頂いたのですが、「オッドタクシー」では普通はアニメファンが買わないものが売れるそうです。あまり普段はでないマグカップとかTシャツ、トートバックとか。「こんなに数字の傾向が違うのは珍しいです」と言われました。


平賀:普段アニメを観ない方も「オッドタクシー」を見ていただいているのかもしれない。作品を応援する気持ちで買ってくれたのかなと思っています。


神戸:TVシリーズの放送中はコロナ禍でリアルイベントがほぼできなかったので、ファンの方がインターネット越しでしか見えなかったんです。有り難いことに映画になって、何度か有観客でのイベントもさせていただいて、ようやく皆さんのお顔が見えました。
いらしてくださった皆さんを眺めたら本当に老若男女なんです。男性も女性も、お1人のかたも、複数人の方も、大学生とか団体やカップルで来ている方もいて、本当に層が広いことにびっくりしました。

P.I.C.S ST立ち上げと、目指す姿

――映画もヒットしたなかで、この後P.I.C.S.のコンテンツの展開はどうなりますか?新たにP.I.C.S. STという部署も生まれました。

▼P.I.C.S. ST
https://www.pics.tokyo/st/

平賀:オリジナル作品を企画・制作するブランドとして、P.I.C.S. ST を立ち上げました。 カテゴリーを決めずに、アニメだけじゃなくて、いろいろやりたいと思っています。幅広いクリエイターや作家との繋がりが自分達の強みだと思っています。才能ある人たちが新しい場所で活躍できる企画にチャレンジしていきたいですね。

企画の内容への拘りだけでなく、完成した後、作品の届け方も楽しんでもらえるような、そういうブランドにしていけたらいいなと思います。


――ジャンルは問わない感じですね。


平賀:そうですね。面白いことをやっていることを少しずつ知ってもらって、そこに人が集まって、また新しい作品ができる。そんなループが生まれるといいなと思います。
そして、それを続けていく為に、ビジネスとして成功することにもこだわりたい。「売れなかったけど良い作品だったんだ」では続かないですから。
簡単な事ではないですが、自分たちが面白いと思えるもので結果を出して、作った人たちに還元されるサイクルにしていければと思います。

『オッドタクシー』では作り手も積極的にビジネスに参加しました。それぞれテリトリーは大切ですが、自分の担当以外は関係ないというスタンスより、作品を成功させるためにやれることは何でもやる姿勢で作品全体にコミットしていければと思います。


――新しい組織のあり方ですね。


平賀:熱狂的な思いや偏りは、実現に向けて関わる人が増えると、削がれていくことが多いので、P.I.C.S.らしいエッジの効いたクリエイティブは、これからも大切にしていきたいです。

そんな思いを共有できる皆さんと、立場を越えて、これからも一緒に作品を作っていけたらと思いますし、「P.I.C.S.との仕事は楽しくて、面白い」と思ってもらえたら最高ですね。