アマゾン川 夜行船ドン・ホセ号でのできごと

On the Night Boat Don Jose at Amazon River

イキトスからドン・ホセ号という夜行船に乗ってレケーナに向かっていた時のこと。
撮影でペルーアマゾンを訪れていたのは11月の終わり。ちょうど乾季と雨季の季節の変わり目で、上流から始まった雨の影響でアマゾン川の水かさも日に日に増していく、そんな時期だった。

僕らは遡上する船の甲板で、暮れゆく夕日を撮っていた。
遡上すると言っても、一晩かけて走って高低差がたった数メートルしか変わらないほとんど水平の大河だ。
横から沈見ゆく黄色い太陽の光を浴びながら、水平線のずっと先まで続く川上を目指し、旧式のVOLVOのエンジンがゴロンゴロンと唸りながら、ただひたすら進んでいた。

この季節の変り目に当たってしまった僕ら撮影班は毎日・毎日変化する天気に翻弄され、それでも、朝から晩までバイクタクシーやペケペケ(小舟)での移動を繰り返し、思ったよりも撮れ高が少ない。
多少の焦りを感じつつも、移動日には何もできないという半ばあきらめながら、一日のうちで最も美しい瞬間の“森”と“水”に見とれていた。

アマゾン川の川旅はとても快適だ。
ほとんど波がなく水の抵抗を受けない平ぺったい形の大型船は、日光さえ遮る屋根があれば、動いてさえいれば風が天然のクーラーとして働き、とても気持ちいい。
乗客は天井の穴にハンモックの紐をかけ、本を読んだり、音楽を聞いたりしてそれぞれの時を過ごしている。
僕らも客室の前にハンモックや椅子を出し、ゆらゆらと揺られながら風を受けていた。

突然、顔にパチっと何か当たる。小さな虫だ。
あれよあれよという間にパチパチと色んな所に当たる音がし、身体や甲板にまるで雨のように大量の虫が降ってきた。
というより、虫の雲に僕らの船が突入したのか。とにかくものすごい量の虫が飛んでいた。
不思議なのは、はじめの数分は戸惑うが、そのうち気にならなくなってくる。
絶対的な自然の力に対する本能的なあきらめに近いのか、人間とはすごいものだ。
(こういう自然に対するある種の“あきらめ”はアマゾン旅ではちょいちょいあったが、それはまた別の機会に。)

しばらくすると、僕は虫の雨の中で(傘もささず)夕刻の空の色と海のような水面を移動している状況を冷静に見とれていた。風が気持ち良いという感覚さえも戻ってきた。

周りを見渡すと無数の中に光の筋が見える。ホタルだ!
何百というホタルが飛んでいる。
よく見ると、森の木々にも点滅する光が塊で見え、同調するように点滅している。
白い色のホタル以外にも赤い色をしているものいる。

カメラには暗くて収めることはできなかったが、あのグラデーションの空とパチパチと身体に当たる虫を感じながら見た“光の現象”は忘れられない。

発光生物だよと松坂さんはロン(ラム酒)を片手にゆらりと言う。
あいつらは頭が光るんだ。
日本のホタルとは全く別種だよ。
そう言ってブラジルで見た別の発光生物の話をしてくれた。

雨季と乾季の変わり目はアマゾンのなかでも1年のうちで最も自然環境が変化する時期である。広大な熱帯雨林に雨水が流れ込み、川に近い森や湿地帯は浸水林として水没する。(森が水に沈む)
雨季の始まりには多くの植物が発芽し、同時に虫たちも一気に増殖し、それを捕食する魚や鳥も嬉々として繁殖期を迎える。
自然の活動が一気に開花する。乾季から雨季の変り目とはそういう瞬間でもあるのだ。
地球が、大地が、木や虫や様々な動植物が同調し合いながらメキメキと伸びていく、個々の生命体ではなく総体でのエネルギーを感じた。

気づくと日はとっぷりと暮れ、いつの間にか虫たちの夕刻の飛行活動時間は終わったのか、静かな水面へと戻っていた。
ドン・ホセ号は相変わらずゴロンゴロンと唸りながら、真っ暗な中をサーチライトで川岸を確認しながら進む。

自然の中で人間はちっぽけな存在だが、ありとあらゆるエネルギーに包まれながら、生かされ、進んでいるような不思議な感覚になった夜だった。


株式会社ピクス
クリエイティブ・ディレクター/ドローンパイロット
坂本立羽(さかもと たては)


Release
December 2020
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