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「自分たちがいいと思ったものを」Creepy NutsのMVを支えるふたりの信頼論(後編)
P.I.C.S.が手掛けるプロジェクトや働くメンバーのバックグラウンドを掘り下げるP.I.C.S. CASE STUDY。
今回はSKY-HI、Number_i、chelmicoなど数々のMVを共に作り上げてきたディレクター・鴨下大輝とプロデューサー・鈴木麻雄の対談を実施。
前編では、Creepy NutsのMV制作をはじめ、企画の生まれ方やチームづくりなど、ふたりならではのMV制作の裏側を紐解きます。
鴨下大輝:ディレクター
1995年生まれ、東京都小平市出身。首都大学東京(現:東京都立大学)インダストリアルアートコース卒。2020年よりフリーランスとして活動。ファンクと海とラーメンが好き。P.I.C.S. management所属
https://www.pics.tokyo/member/daiki-kamoshita/
鈴木麻雄:プロデューサー
1990年8月14日生まれ。大学時代、知人よりP.I.C.S.プロデューサーを紹介され、卒業後2015年P.I.C.S.入社。MVを中心に、CM、LIVE、OOHなど映像作品を多数担当。
https://www.pics.tokyo/member/mao-suzuki/
——ふたりはCreepy Nutsをはじめ多数のMVで一緒に仕事をしていますが、そもそもどんな関係性ですか?
鈴木:鴨下は以前、P.I.C.S.で制作をやっていて、よく一緒に飲みに行っていました。鴨下がディレクターになってからは仕事を頼んでますけど、もともとは僕の後輩ですね。
鴨下:そう、簡単に言うと先輩と後輩(笑)。
鈴木:でも、仕事上で僕が先輩だから「こうしろ」と命令することはないし、鴨下も後輩だけどヘンに遠慮することはない。気心の知れたディレクターのひとりですね。
鴨下:僕がフリーランスになる前の1年半ぐらい、P.I.C.S.で業務委託のディレクターをやっていたんです。麻雄さんと最初に組んだのは、そのときに撮ったWATWINGの『HERO』のMVだと思います。

鈴木:大前提として、その後も組んでいる理由は「鴨下に頼んだら良い作品になる」というのがあるから。MVのディレクターの決め方って、曲を聴いた瞬間に「この人だ!」となるから言語化するのが難しいんですけど。
鴨下:ホントに感覚ですよね。
鈴木:例えば、大量にCGを使う場合や、ストーリーをメインで見せる作品は、そのスキルに長けたディレクターにお願いすることになりますけど、鴨下は別にそういう感じじゃないんだよな…。よく鴨下に曲を聴かせながら「こういうMVにしたいよねー」という話をするんです。でも、その会話って第三者が聞いたら超感覚的で、鴨下と僕にしか分からない。普通に「さっきから何言ってんの?」となりますから(笑)。そういう自分の感覚の中で鴨下にハマる案件を依頼していて…。でも、鴨下はいい意味で遠慮がないので、作品に対してピンとこない部分があると「今回の方向性だと、いまいち熱量が出しきれない」とストレートにぶつけてくるんですよ。
鴨下:そうっすね(笑)。MVは本当に曲ありきです。以前は何でも引き受けていましたけど、曲との相性って絶対にあると思うんです。そのへんを麻雄さんはすごく理解してくれているから、麻雄さんからの依頼は“間違いない”だろうな、という感じです。

鈴木:鴨下はダンスミュージックが特別好きなわけではないよね?
鴨下:ダンスミュージックはそこまでですけど、ブラックミュージックは好きですね。
鈴木:ダンスを撮るのは楽しいと思いますけど、編集は僕が結構口を出すこともあります。カメラマンがめちゃくちゃうまくて、ダンスシーンの撮影素材が良くても、編集によってはその良さが100%生きないこともあると思ってて。逆に、現場でセオリー通りに撮っていたとしても、編集がうまかったら特別カッコよく見える。そこが両方噛み合わないといけないんです。鴨下はダンスの編集が特筆してうまいかというと、そうでもない気がする。
鴨下:…らしいです(笑)。
鈴木:鴨下の編集のすごさは既視感のなさ。構成がうまいんですよ。例えば、1サビで出てきた素材が映像のラストに使われていたとしても、構成がうまいから既視感を覚えないというか…。ダンスシーンでも意外と撮影でフィックスを使うよね?
鴨下:意識はしていないですけど、多いかもしれないですね。
鈴木:フィックスも全然アリなんですけど、仮にカメラワークや編集が完璧じゃなかったりしても、画が動いていたらなんかそれっぽく見えるじゃないですか。で、極論を言うと、踊る人間がマジでうまかったらカッコいいと思うんですよ。鴨下はダンスの編集に特化しているわけじゃなくて、別のところで強みがあるという感覚です。

——MVの企画書はどのように作っていきますか?
鈴木:鴨下はストーリーを立てて映像にする企画はたぶん好きだと思うけど、自分が書いたストーリーには酔わないで、企画の骨子が固まったらすぐにアートワークや画のほうに目が向くんです。アートディレクターみたいな脳味噌でキービジュアルになる一枚絵を作ってるなと思うときはある。
鴨下:言われてみるとマジでそうですね。
鈴木:実際の企画書に起こすのは鴨下なんですけど、企画書になる手前でたまに「ヤバい、“来た”かもしれないです」って言うんですよ。
鴨下:毎回、企画のタネというかMVのコンセプトの核になるようなヤバいアイデアを見つけた瞬間に麻雄さんに連絡しているんです。Creepy Nutsの『二度寝』のときも「ヤバいのを思いつきました」と、完全に僕にしか分からない文面だと思うんですけど、一応送るようにしていて。
鈴木:それが感覚的すぎて、僕ですら言ってることがよく分からないんです。でも、テンションが上がってるならいいや、と(笑)。案件によるんですけど、企画書に起こしてもらったら対面で鴨下から説明を受けて、気になるところがあったら「ここはこういうふうにしない?」と言って直してもらうこともあるし、ものによっては「この企画書のままいっちゃおう」となることもあります。

——鴨下さんのやりたいことと、鈴木さんのやりたいことが異なることもあるんですか?
鴨下:ないですね。そもそも同じ方向を向いて作品がつくれるということを込みで僕に声をかけてもらっていると思うので。
鈴木:案件やその時々によりますが僕から企画にめちゃくちゃテコ入れをお願いすることもあります。撮る前にいろんな条件が固まっちゃっているときは、もはや自分で企画を考えていることもあったり…。でも、鴨下とやるときにそれはないですね。基本的にプロデューサーはディレクターが考えたことをどう具現化してあげられるのかを考えるので。それは鴨下を気持ちよくさせるためではなく、その企画が素晴らしいものであれば、アーティスト、クライアント、視聴者やファンのためにもなるし、ひいてはウチの会社のためにもなりますから。
——企画を考えるときに予算や撮影のスケジュールはどの程度考えますか?
鴨下:もちろんリミットはありますから、あらかじめ「今回はこれくらいの規模感」というのを事前に聞いておいて、その枠組みを意識しながら企画を膨らませていく。そのほうが、後からやりたいことが削られて行くより、結果的に実現できるアイデアが多くなってお互いにハッピーじゃないですか。まあ、企画を考える時点では僕が正確に見積もれていないと思いますけど…。
鈴木:「本当に制作の経験あるの?」と思うぐらい、鴨下はマジで分かっていない(笑)。だけど、そこを調整するのは僕の仕事なので。一番やりたくないのは、ディレクターが出してきた企画書を見て、こっちで勝手に削る行為。もしオーバーしていたとしたら「何か削れるところってあるかな?」と相談するし、それで悩んじゃったら「例えばさ…」とアイデアを出してみる。あくまでディレクターを立てるというか、ディレクターの考えを尊重したいので。

——企画を考えるうえでその楽曲を聴き込むと思いますが、最初に曲を聴くときはどこを注目しますか?
鴨下:僕は無心で聴いています。大事にしているのは最初に聴いた瞬間の感覚。そのときに脳内に思い浮かんだ映像がすべて企画になっています。
鈴木:僕も一回目に聴いたときに、すぐにディレクターの名前が出てきますね。『Mirage』のときはイントロを聴いた瞬間に「あっ、この曲は(池田)一真さんだ!」と思いました。実際に企画を出したら、松永(DJ松永)さんとR(R-指定)さんも思っていた通りの内容だったみたいです。『眠れ』に関しては「ヒップホップのMVを撮っていない人でやってみませんか?」という提案をしたんですけど、松永さんとRさんがそれを面白がってくれて、(加藤)ヒデジンさんに監督してもらいました。ディレクターのほうが最初に聴いた印象がMVの画に直結するから超重要だと思います。
鴨下:僕はヘッドフォンで、爆音で聴きますね。もちろん歌詞もインスピレーションにはなりますけど、本当にどこか一部分に注目しているわけではなくて、全体の聴いた印象を大切にしています。
鈴木:補足として、まず歌詞に着目して画を考えていくディレクターもいます。企画によってはそれが正しい場合もありますから、やり方は人ぞれぞれですね。

——撮影までの準備段階で鴨下さんは絵コンテを描きますか?
鴨下:MVでは基本的に描かないですね。絵がうますぎて、見た人がビックリしちゃうので。
鈴木:ある意味うまいと思う(笑)。
鴨下:ガチガチに決めたくないんですよね。MVは余白を持たせたいなと思って、“文字Vコン”を作ります。音のシーケンスに対して「この音の部分にこのカットがくる」「リップのヨリ」という文字を当てた動画ですね。
鈴木:そこまでできたらテストの映像をはめ込んで、ロケ風景込みの文字Vコンにアップデートします。その裏で制作チームは美術の発注、ロケ地のリサーチやスタジオの押さえ、撮影日までのスケジュールのバミりとか、いろいろやることがあるんですけど、スタッフィングは鴨下と話し合いますね。
鴨下:僕のほうで考えている人と、麻雄さんのほうで考えている人をそれぞれ出し合うような形で。
鈴木:特にカメラマンと美術ですね。ほかのプロデューサーってスタッフのことにあんまり口出さないの?
鴨下:ほとんど言わないっすね。
鈴木:あっ、じゃあ鴨下にとってうるさいプロデューサーだ(笑)。スタッフはだいたい監督が決めるんですよ。プロデューサーが監督を決めて、監督がカメラマンを決めて、カメラマンが照明技師を決める…という現場が多いみたいですけど、僕はチーム作りから参加していくタイプ。最終的に作品の責任を負うのはプロデューサーじゃないですか。こっちも納得したうえで監督がリクエストした人にお願いするのはもちろんですけど、全部お任せにしちゃうと、作品を背負いきれない気がして。というか、「そのスタッフ決め、俺も仲間に入れてよ」みたいな感覚です。…めんどくさい?
鴨下:いや、全然。その気持ちは分かりますよ。

——鈴木さんは鴨下さん以外の監督起用も含め、数多くのCreepy NutsのMV制作を手掛けてます。深い信頼関係を感じますが、Creepy Nutsの皆さんと映像制作を進める上で、どのようなスタンスでのコミュニケーションを大切にされているのでしょうか?
鈴木:『2way nice guy』から担当させてもらっているので、かれこれ5年目ですかね。最近は松永さんとRさんが指名してくれている感じもあって、何か新曲が出たらお声掛け頂けるという関係性ができているのがとてもありがたいです。僕は松永さんとは同い年で、Rさんはひとつ下なんですけど、ふたりと同世代ということもあるのかな…。松永さんはすごく好奇心旺盛で、何かひとつのことにハマるとすごく深掘りするイメージがあります。「最近、こういうカッコいい映像を見たんですけど…」とかも教えてくれるんですよ。ただ、その表現をMVに必ず盛り込んでほしいというわけではなくて、あくまでコミュニケーション。アーティスト側から「映像はこうしたいです」ということを具体的に言われるケースはあまりなくて。たまにRさんが「自分のリップシーンはこういうことをやってみたい」とお話されますけど、あくまでも信頼してもらったうえで、僕らも良い意味で自由にクリイティブのご提案ができていると思います。
——鴨下さんは『二度寝』から監督に起用されていますが、きっかけは何だったんですか?
鈴木:『二度寝』以前にCreepy NutsのMVの企画書を鴨下が書いたことがあって。それがCreepy Nutsのふたり的に面白かったらしいんです。だから『二度寝』の話が来たとき、すぐに「鴨下はどうですか?」と伝えて。個人的に鴨下はハマると思ってCreepy NutsのMVをやってもらいたかったんですけど、『二度寝』を担当したらメンバーも気に入ってくれて、そこから『doppelgänger』や『ちゅだい』も撮ってもらうことになります。現時点で一番新しい『Fright』も超良かった。

鴨下:Creepy Nutsのおふたりは自分たちの見せ方もアーティストとしてしっかり芯がありますよね。もともとMVはごりごりヒップホップのビデオではなくいろんな映像を作っている印象でしたが、僕がディレクションに関わらせていただくようになってからは、さらに映像表現の振り幅を広げられた自負はあります。
鈴木:聞きました?これが鴨下の特徴なんですけど、基本的に自分の表現にめちゃくちゃ自信があるんです(笑)。ただ、僕はディレクターを決めるときにいつも心中するつもりでやるんです。鴨下は「俺が一番だ」ということを迷いなく言ってくれるので、自信を持ってやってくれる人のほうがこっちも安心するというか。これはプロデューサーによると思うんですけどね。
鴨下:プロデューサーってみんな個性的なんです。その人ごとにやり方が全然違う。麻雄さんは完全に別ジャンルというか、大きく分けるとしたら麻雄さんか、それ以外のプロデューサーか。
鈴木:それ、イジってる?(笑)。
鴨下:いや、そうじゃなくて、麻雄さんはベースにある意思疎通できるポイントが多いんです。「俺が一番だ」ということはどのプロデューサーにも言いますよ。ただ、事前に企画に対して深く話したり、「この作品はこうしたいよね」という話をプロデューサーとすることはほとんどない。麻雄さんとやるときぐらいです。
鈴木:たぶんそれが普通のディレクターとプロデューサーのやりとりなんだろうね。そういう意味でアーティストの方も「鈴木さんにお願いしたらクリエイティブにちゃんと入ってくれて、いい作品ができる」と思ってくれているのかもしれません。でも、それを具現化してくれているのは鴨下をはじめ優秀なディレクターのみなさん、準備や進行をしてくれている制作部のみんながいるから。良い部分の上澄みだけを僕が持っていっているみたいなところもあるんですけど、とはいえプロデューサーとして「こうしたい」というビジョンはあるし…。その「こうしたい」を一番軽いノリで話ができるのが鴨下なのかもしれないです。

後編へ続く。
取材・文:山崎ヒロト/撮影:Moto Ishizuka